今のこのコロナ禍の状況で、フードデリバリーサービスというものは非常に大きく発展したと思う。
その中でもとりわけ顕著であるのが、みなさんご存じUber Eats である。
何を隠そうこの僕もUberのヘビーユーザーである。
外に出るのがダルすぎる日曜の昼や雨の日の休日などは特によくお世話になっている。
プロローグ
そんな僕の周りには、Uberの配達員をしている友達が何人かいる。
先日そのうちの一人から
「招待コードを使ったら、一回配達するだけで3万円もらえるからやってみない?取り分は1万5千円ずつでどう?」
と聞かれた。
正直あの大きい箱を背中にぶら下げてチャリをこぐのはめんどくさかったが、額が額だったので僕の心の天秤はゼニのほうへ音を立てて傾いた。チャリン、と。その間実に0,7秒。
「Why not?」
僕は気づくとこう答えていた。
まあ一回運んで終わるならそんなに時間もかからないだろうし。
そう思っていたが、ここからが長かった。
試練
まず、Uberの配達員をするためにはUber Driver というアプリを入れて、そこに登録する必要がある。
しかし、すでにUber Eats にアカウントを持っている場合は、それと連動させなければならない。
自分はUber Eatsのアカウントを持っていたので、連携させることとなった。
ただ、ここで問題が一つ。UberDriverには、本名で登録しなければならないのだが、あいにく自分のUberEatsのアカウント名はニックネームで登録してある。つまりUberEatsのアカウント名から変えねばならぬということになる。
その時はまあすぐ変えられるだろうと思っていたが、アカウントの画面に移るとあらびっくり。名前のところだけ変更ボタンが用意されていないのである。
住所や電話番号はいつでもどうぞといわんばかりに変更ボタンが光っている。
さてどうしたものかと、とりあえずヘルプ欄のサポートセンターに移動したが、なんとチャットができないのである。ちなみにサポートセンターのマークは吹き出しマーク。これはもう立派な詐欺ではないか。
そう心に憤りを感じながらも、ヘルプ欄のトピックに沿って、困っている内容を絞るためにポチポチ選択していく。
すると、文章を打ち込めるページにたどり着いた。
今までの問答は何だったのかと内心思いつつ、アカウント名変更の旨を伝える。
しばらくして返信が返ってきて、名前を入力すると、次の日にはそれが反映されていた。やるじゃないかUberEats。
しかしこの過程において、最大の「それせこくないか?」ポイントが発生したのである。
招待コード打てない問題
UberEatsのアカウントで登録すると、新規登録扱いにならず、紹介コードを打つ設定画面にいかなくなってしまう。今回そのことに気づかずに登録を完了してしまった。
しかし、招待メールを送信と書かれているところからURLをラインで送ってもらい、そこから登録したので、問題はないと思っていた。
招待されてUberDriverを始めた場合は、招待した側の画面に被招待者の名前が表示される。つまり今回のケースでいくと友達の画面に自分の名前が表示されていることになる。が、いくら読み込みなおしても画面に変化はない。
これはきっとなにか不手際があったに違いない。そう思った僕たちは、再度サポートセンターにサポートを求めた。
またしても選択式の答えを選んだ後にたどり着いたチャットルームで、現状を細かく伝えた。
すると、確認のために
「受信日時が記載された招待コードのスクリーンショット」
が求められた。
招待メールはラインで送ったため、日時は書いていないし、そもそもUberEatsのアカウントで登録したため招待コードも記入していない。
3万円ドリームも終わったかに思えたが、そうは問屋が卸さない。卸させない。
Lineのスクショを何枚も取り、それに書き込みなどを加えながら、時系列に沿って丁寧にチャットに書き込んでいった。すべては3万円のためである。
何回かやりとりを続けていくうちに、やっと紐づけが完了したという連絡がきた。
僕らは涙を流して抱きあった。
ここまで長かったと。やっと3万円がみえてきたと。
そこからはもううきうきである。
いつ配達をするかとか、Uberリュックの使い方だとか、UberDriverアプリの使い方だとかを、きらきらと目を輝かせながら話した。むろんその輝きはゼニそのものであったが。
出会いと別れ
こうしてテンションの上がった僕たちはさっそく次の日に配達をすることにした。
Uberのリュックは友達に貸してもらい、さらには配達に一緒についてきてくれるという。
僕らの間には確実に絆が生まれつつあった。それは3人の諭吉が脳内で踊っていたからなのか、はたまた共にUberサポートセンターに立ち向かった戦友の意識なのかはわからない。
しかし動機が何であれ一緒に配達をしたということはゆるぎのない事実である。なんなら道中いろいろと教えてくれたので、教習所の教官のようだったかもしれない。
補助員つきのUberの配達員が今までいただろうか。
そのことが気にならないくらい僕たちは諭吉ワールドに毒されていた。
さて、満を持して配達というわけだが、スーパーポジティブ慶応義塾ワールドに浸っていた僕は、注文者がきれいなお姉さんだった時を想定していた。
どうやってスマートに渡そうか、あわよくば連絡先交換なんてことも。
そうこうしているうちに、注文者が女性であるということが僕らの脳内で決定された。
仮定が結論に置き換わってしまう見事な例であると賞賛を禁じ得ない。
配達ボタンを押し、注文が入った。
注文された商品はモスバーガーだった。しかもかなりの量である。贅沢なことにコーラのLサイズまでついてある。
女性2人でモスパーティーか?モスパーティーの現場に自分は今から向かうのか?と、若干の緊張感も持ちつつ、友達と作戦を立てながら目的地、あらためパーティー会場へと我々は向かった。その心持ちはさながら戦士である。
30分ほどチャリを走らせた後、会場についた。どうやら新築のアパートのようだ。
ドキドキしながらエントランスのインターホンを押すと、無言で扉が開いた。
「シャイなタイプなのかな」と思いながら階段を上がっていき、部屋についた。
再度インターホンを鳴らす。すると中からおよそ女性のものとは思えないものがぬっと出てきた。
毛むくじゃらの腕である。
しかもかなり太めの。
そこにいたのはトトロのようなおじさんだった。いや、おじさんのようなトトロだったかもしれない。
ここで僕は妄想の世界から現実世界に引き戻された。
否、ここは本当に現実世界なのか。
四捨五入したらトトロである生命体と出会うことで新たな世界へと足を踏み入れたのではないだろうか。
そう呆気に取られている間に商品を渡し、扉が閉まった。
ここで僕はようやく現実世界に戻ってきた。
下に戻ると友達が待っていてくれていた。
「女の人だった?」
と聞いてきたので
「女の人ではないと思う。」
と答えた。
帰るときの会話はなぜか少なかったことを覚えている。
試練再び
そんなこんなで配達を完了した僕たちであったが、おかしなことに、友達のアカウントに反映されるべき僕の名前がなかったのである。
正確にいうと、招待した人の達成したリストが更新されておらず、紐づけのできていない状態ということである。
我々には驚きと悲しみと、そして半ばあきらめの気持ちがせめぎあっていた。
ここまで来てだめなのかという落胆。いや、ここまで来てもだめならばもういいではないかという受容。俺たちはよく戦ったという賞賛。
言い得ぬ感情とはこのことを言うのかと。
しかしどちらからということもなくこの言葉が投げだされた。
「もう一回だけサポートセンターに連絡してみよう」と。
これでだめなら諦める、ということをお互いがくみ取った。
そして、2人それぞれが全力で問い合わせたところ、数日後に返事が返ってきた。
大勝利である。
この返信を見たた直後、お互い見つめ合ったまま無言でうなずきあった。
この日ほど笑った日はない…!この日ほど泣いた日も…
この後すぐに友達のアカウントに3万円が振り込まれていることを確認した。
かくして3万円を手にした男たちは勝利の美酒を求めて夜の街に消えていったのであった。